社内恋愛狂想曲
そう言ったあとで、金曜の夜に“準備をしていない”と言って私を抱くことをためらっていた潤さんを思い出した。

そのあと紆余曲折の末にようやく身も心も結ばれ、幸せな気持ちで“ずっと一緒にいよう”と約束したのに、週が明けたら私たちはまた元の上司と部下に戻っている。

こんなに好きなのに、全部なかったことにして平気な顔をするなんて、私にはできない。

この先潤さんと顔を合わせるたびにこんな気持ちになるのかと思うといたたまれない。

これ以上一緒にいるのがつらくて、私は潤さんの手から強引に荷物を取り返した。

「三島課長、ありがとうございました。本当にここでもう大丈夫ですから……失礼します」

頭を下げてバッグを肩にかけ、駅までの道のりを振り返らずに走った。

着替えと資料でいっぱいになったバッグより、向ける場所のない心の方が重かった。


関西支社に着くと、支社の社員との会議や工場と販売店の視察などをこなし、とにかく多忙で仕事をしている間は余計なことを考える暇もなかった。

夜になってようやく宿泊先のホテルへたどり着くと、入浴と簡単な食事を済ませ、何も考えずに済むように早々に床に就いた。

< 712 / 1,001 >

この作品をシェア

pagetop