社内恋愛狂想曲
お店を出る頃にはすっかり夜も更けて、ちょっと一杯のつもりが中ジョッキをいくつも空にしてしまっていた。

お酒に強い私はこんなのどうってことはないけれど、人並みの伊藤くんは泥酔とまではいかなくてもそれなりに酔っていて、少し足元がおぼつかない。

なんとか電車に乗せたとしても、最寄り駅から家までの道のりを持ちこたえられるかが心配だ。

「大丈夫?ひとりで帰れる?」

「大丈夫じゃなかったら佐野が家まで送ってくれる?」

「それはやだ、終電なくなるから」

後輩の女子ならまだしも、同期の男を送って行くほど私はお人好しでもなければ無防備でもない。

意識はしっかりしているようだし、とっととタクシーに押し込んでしまおうか。

「家はここから近いの?」

「そんなに近くないけど、腹減って我慢できなくなったからここで電車降りたんだ。俺が今住んでる場所の最寄り駅、まだ3つも先」

わざわざ電車を降りたことを強調しているところを見ると、ここが終着駅ではない路線の電車に乗ってきたということだろう。

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