社内恋愛狂想曲
私はここが終着駅の路線の電車に乗ってきたけれど、自宅の最寄り駅がここから3つ先という点は同じだ。

だけどこの駅はいくつもの路線が接続する乗換駅だから、同じ3駅先と言ってもここからどの路線に乗り換えるかで全然違う場所になる。

「伊藤くんに付き合って改札出たけど、私んちもここから3駅先。会社からけっこう遠くて毎朝大変なんだ」

「俺んち会社からわりと近いよ。そうだ、部屋余ってるし一緒に住む?」

伊藤くんは口からサクサク音がしてきそうなほど軽いノリでそう言った。

それは私を男友達とか小動物か何かと同等と見なして親切心で言っているのか、それともただの酔っぱらいの戯れ言なのか?

どちらにせよ伊藤くんの調子の良さは前から知っているから、仮に伊藤くんがシラフだったとしても私はそれを真に受けたりはしない。

「わー、いいのー?助かるー。通勤に便利な部屋って最高ー」

一緒に住む気なんて1ミリたりともないから棒読み調で返事をしたのに、伊藤くんは酔って私の真意に気付けないのか、立ち止まって荷物を地べたに置き、ジャケットの内ポケットから手帳を出して今月のカレンダーのページを開いた。

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