社内恋愛狂想曲
新しいコートを着ておそろいのマフラーを巻くと、潤さんはニコニコしながら私の頬にキスをした。

「かわいい。よく似合うよ」

「ありがとう。潤さんも素敵」

恥ずかしげもなくお互いを誉め合いながら廊下を歩き、玄関のドアを開ける。

「おはようございます」

ゆう子さんが丁寧にお辞儀をしたので、私たちも慌てて深々と頭を下げる。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

玄関の鍵をしめて、ゆう子さんの車の後部座席に乗り込んだ。

「では早速参りましょうか。時間に限りがありますので、滞りなく事を運ぶために、まずは役所に婚姻届をもらいに行きましょう」

ゆう子さんの運転で役所に着くと、ちょうど業務開始時間になるところだった。

「わたくしが窓口に行ってきますので、このまま少しお待ちくださいね」

これは怪我をしている私たちへの気遣いなのだろう。

ゆう子さんは車を降りて役所の中へ入り、しばらくすると婚姻届を手に戻ってきた。

「ではこれから志織さんのマンションに向かいます。志織さん、住所を教えていただけますか」

マンションの住所をカーナビに入力するのかと思ったら、ゆう子さんは住所を聞いただけでカーナビに触れることすらせず車を発進させた。

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