社内恋愛狂想曲
「葉月の気が変わらないうちにと思って……」

伊藤くんが少し甘えた声でそう言うと、葉月は愛しそうな目で伊藤くんを見て苦笑いを浮かべた。

そして今度は葉月が伊藤くんの手を引いてキッチンに向かう。

「気ぃ変わらんから大丈夫や。嘘ついたらハリセンボン飲んだるわ」

「やっぱりそこは針千本じゃないんだな……。まぁいいか」

照れ屋で恥ずかしがりやの葉月は人前で伊藤くんとベタベタくっついたりはしないから、二人がこんな風に手を繋いでいるところは初めて見た。

だけどきっと二人きりのときは、葉月も伊藤くんにだけは甘い顔を見せるのだろうと思うと、なんとなくあったかい気持ちになる。

なんだかよくわからないうちに、伊藤くんと葉月はすっかり仲直りをして、おまけに入籍を早めることになったようだ。

何はともあれ、丸く収まって良かった。

キッチンで後片付けを始めて少し経つと冷静になったのか、葉月は食器をスポンジで洗いながら、しかめっ面で首をかしげた。

「ホンマやったら今日は三島課長と志織のおめでたい日やのに、なんでこないなことになったんやろ……」

「佐野が玲司に彼女いるのかって聞いたから?」

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