正しい『玉の輿』の乗り方
午後7時、樹さんと一緒に地下の駐車場に降りた。
樹さんの仕事はまだ残っていたようだけど、歓迎会だからと切り上げてくれたのだ。
「歓迎会って挨拶とかしますよね。私、そういうの久しぶりだから緊張しちゃいます……」
ソワソワして落ち着かない私を、樹さんがポカンとした顔で見る。
「別に挨拶とかいらないだろ。俺とおまえしかいないんだから」
「えっ? 二人だけ?」
「そうだけど。ダメだったか?」
「いえ……そんなことないですけど」
「ちゃんと旨いもん食べさせてやるからいいだろ」
樹さんはクスッと笑いながら、愛車のBMWに乗りこんだ。
そっか。
二人きりだったのか。
まあ、それもそうか。
いつまで働くのか分からない私を秘書課の社員たちに紹介しても仕方ない。
私だって色々と突っ込まれたら面倒だ。
これは樹さんなりの配慮なのかもしれない。
そう納得しながら私も助手席へと乗りこんだ。
「あっ、でも。車だと樹さんがお酒飲めないですよね」
「ああ、代行呼ぶから問題ないよ。俺、運転手つけてないから、自分の車で帰らないと翌朝困るし」
「なるほど」