正しい『玉の輿』の乗り方
5 二人だけの歓迎会

「えーと、確かカセットコンロは上の棚にあったはず」

アパートのキッチンで背伸びをしていると、後ろから樹さんの手が伸びてきた。

「いいよ。危ないから取ってやる」

背中に彼の体温を感じ、私の心臓は煩く音を立て始めた。

「ほら」

「あ……どうも」

私はカセットコンロを受け取って、急いで樹さんから離れる。

ダメだ。
もう認めるしかなさそうだ。
樹さんに恋をしてしまったことを。

でも、彼はもうすぐ結婚する。
自覚したところでどうにもならない恋なのに。
バカだな、私は。

思わず深いため息をつくと、樹さんが心配そうに覗きこんできた。

「ん?」

「あ、いえ。何でもないです。それより、今日はとことん飲みましょうね」

缶ビールを袋から出して明るく笑うと、樹さんの表情が曇った。

「いいけど………おまえ、さっき、酒はあんまり飲めないようなこと言ってなかったか?」

「飲めないですよ。でも、ここは自分の家だし、今日くらい酔っぱらってもいいかなって。私が途中で潰れたら、樹さんは勝手に代行呼んで帰って下さい」

そう口にした途端、おでこをパチンと弾かれた。

「イッタ。何するんですか!」

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