正しい『玉の輿』の乗り方
「よし、じゃあ、乾杯。今日から秘書としてよろしくな。婚活もがんばれよ」
「はい。宜しくお願いします!」
樹さんとビールて乾杯する。
落ちていた気持ちもA5ランクの極上の肉を前にして、ようやく元に戻った。
「まあ、とりあえず食えよ」
樹さんが私の取り皿に松坂牛を乗せた。
「はい。では、綾乃菜子、人生初の松坂牛を頂いちゃいます!」
私はちょっとおどけながら口を開く。
「うわっ、何このお肉! めちゃめちゃおいしい! この世のものとは思えないです!」
手足をバタつかせると、樹さんはビールをテーブルに置きながらふっと微笑んだ。
「よかったな。でも、本番のパーティーでは、どんなに料理が旨くても、もう少し上品に振る舞えよ?」
「だいじょーぶです」
早くも次のお肉を頬張ると、樹さんは呆れた顔になった。
「おまえ、頬張り過ぎだよ。顔がハムスターみたいになってるじゃんか。あ~あ、ぽっぺたに卵までくっつけて。ったく、世話が焼けるな、おまえは」
なんて言いながら、樹さんは私の頬に手を伸ばして、指でゴシゴシと拭き取った。
これは、私のことを全く女として見ていない証拠だろう。
それなのに、いちいちドキドキしてしまう自分が虚しく思えてくる。
ちょっと切ない気持ちになった。