正しい『玉の輿』の乗り方
「ところでさ、おまえはどんな男がタイプなんだよ」
夜も更けてきた頃、樹さんが真面目な顔をして、そんなことを尋ねてきた。
「えっ? 何ですか、いきなり」
「いや、だって。そういうのをちゃんと把握しておく必要あるだろ? 見当違いな奴を紹介しても仕方ないし」
「まあ、それはそうですけど」
タイプと言われても困ってしまう。
まさか『あなたが理想のタイプです』とも言えないし、そもそも選り好みできるような立場でもない。
「別にタイプとかありません。とにかくお金を持っている方ならどなたでもいいので」
言葉にすると、ずいぶん最低な発言だけれども、これしか答えようがなかった。
ちょっと引かれたかな?
なんて思ったけれど、樹さんからは思いがけない言葉が返ってきた。
「そうだよな。大事な妹の命がかかってるんだもんな」
「えっ! 知ってたんですか?」
「ああ。悪いけど少し調べさせてもらったから。3億必要なんだろ?」
樹さんは全てをお見通しだという目で私を見た。
「……はい。結婚したらお借りしようと考えてました。すみませんでした」
私は観念して頭を下げる。
「別に俺に謝る必要はないよ。まあ、俺も似たようなことをしてる訳だし、おまえの気持もよく分かるから。でも、おまえはそれで本当にいいのか? 好きでもない奴と一生生きていくなんてさ」
「いいんです。向こうが私を好きになってくれるなら、私もその人を好きになるように努力します。覚悟はちゃんと出来てるんです。じゃないと、佳子を助けられないから」
一気に感情がたかぶって、涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「分かったよ、菜子。分かったからもう泣くな。俺が何とかしてやるから」
樹さんが優しい声で私を宥める。
それでも、私の涙は止まらなかった。