正しい『玉の輿』の乗り方
「樹さん。お風呂沸いたのでお先にどうぞ。タオルはこれです」
「おー、サンキュ。じゃあ、急いで入ってくるな」
樹さんはバスタオルを受け取ると、機嫌良く我が家のお風呂場へと入っていった。
けれど、何故か5分もしないうちに震えながら上がってきた。
「どうしたんですか? もしかして、ぬるかったですか?」
「いや、ぬるいとかの問題じゃなくてさ……何なんだよ、あの風呂は」
「えっ?」と首を傾げた私に、樹さんはため息をもらしながら言う
「何で浴槽にペットボトルなんか入れたんだよ。邪魔だからどかしたけど、お湯が足りなくて全然浸かれなかった」
「えっ! ペットボトルを出して入ったんですか? 何やってるんですか! あれはお風呂のお湯を節約する為に入れてるんです。出しちゃったら意味がないじゃないですか」
そんな私の言葉に、樹さんが不服そうに呟く。
「それならそうと、先に言っとけよ」
「いや、普通言わなくても分かりますよ」
「いやいや、あんなの分かんねえだろ」
樹さんが負けじと言い返してくる。
「まあ、そうですね。お坊ちゃまには先に言わなくちゃダメでしたね。すみませんでした」
ちょぴり嫌みを込めて返すと、樹さんの眉がピクリと上がった。
「はあ? 誰がお坊ちゃまだよ?」
そんな言葉と共に樹さんの手が私の脇腹へと伸びてきた。
「キャ! ちょっと、何するんですか! ヤダ! やめて下さい!」
まさかの“くすぐり攻撃”に、私は身悶えながら床に崩れ落ちる。
樹さんはそんな私の耳もとで、ドSっぽく囁いた。
「じゃあ、早く俺に『ごめんなさい』って言えよ」
「ご……ご」
一刻も早く『ごめんなさい』と言いたいけれど、くすぐったくて上手く言葉が出ない。
「何だよ、聞こえないぞ?」
「ご……ごめんなさい!!」
涙目になりながら必死に叫ぶと、ようやく樹さんの手が止まった。
「もう! 何するんですか! 信じられない……」
疲労困憊の私を見て、樹さんは愉快げに笑っていた。