正しい『玉の輿』の乗り方
「えっ? どうかしましたか?」
「おまえ、ヒールの裏に何かくっつけて歩いてる。とってやるから、こっち来い」
樹さんは私の腕を掴み、近くのソファーに座らせた。そして、私の正面でかがむと、私の足からそっとヒールを脱がした。
「なんかのシールだな」
樹さんがボソリと呟く。
彼の言葉の通り、私のヒールにはお菓子のおまけについてくるようなシールが巻き付いていた。
きっと、ホテルの駐車場で小さな子供が落としたものだろう。
「よし、取れたぞ」
樹さんは再び私に靴を履かせると、素早く立ち上がった。
「すみません。ありがとうございます」
そう言って、私も立ち上がろうとしたその時。ふと強い視線を感じた。
少し離れた観葉植物の陰から、こちらをジッと見ている女性がいたのだ。
「樹さん、あの方は知り合いですか?」
「ん?」と樹さんが振り向いた瞬間、その女性はサッと身を隠し消えてしまった。
「あ……いえ。何でもないです」
僅か数秒だったけれど、まるで憎い敵でも見るかのようなその顔に、得体の知れない恐怖を覚えたのだった。