正しい『玉の輿』の乗り方
「そうか? 俺には菜子のドレスの方がよっぽどそそられるけどな。今日の菜子はすごく綺麗だから」
樹さんは私に顔を寄せながらそんな言葉を囁いてきた。
「ちょ……何言ってるんですか」
まっ赤になる私を見て、樹さんがクスクスと笑う。
「ハハ。照れてんのか?」
「べ、別に照れてませんけど」
私はパッと顔を背けた。
きっと樹さんは私をからかって楽しんでいるだけだろうけど、無駄にドキドキさせられるこっちはたまったもんじゃない。
「なら、こっち向けよ」
「嫌ですよ」
と、そんなやり取りをしていた時だった。
樹さんが「あっ」と声を上げて、少し先の方へと視線を向けた。
「主役見つけた。菜子、付いて来て」
樹さんは招待客をかき分けながら進んでいく。
私も慌ててそのあとを追った。
「ご無沙汰しています。長峰会長」
「お~宮内くんとこの息子さんか」
「本日はお誕生日おめでとうございます」
「いやいや、もうおめでたいという年でもないんだがね。還暦だから盛大にと周りから言われてしまってな」
長峰会長はツルっとした広い額に手を当てながら、ワハハと機嫌よく笑った。