正しい『玉の輿』の乗り方
「で? そちらのお嬢さんは君の恋人か何かかな?」
長峰会長がそう言って私の方をチラリと見る。
「まさか。残念ながら彼女は私の秘書ですよ」
樹さんが私の背中に手を当ててにこりと笑った。
「何だ。そうか」
「は、初めまして、綾野菜子と申します。本日はお誕生日おめでとうございます」
私がおじぎから顔を上げた時には、既に長峰会長の話は次へと移っていた。
「それより、お父上の方は大丈夫なのかね? 倒れて入院してるそうじゃないか。君も会社がこんな時に大変だな。銀行も融資を渋っていると耳にしたが、本当のところはどうなんだね? なにか打開策はあるのかい?」
長峰会長は探るような目つきで樹さんを見る。
「色々とご心配ありがとうございます。幸い父もたいした病状ではありませんし、すぐに退院できると思います。落ち着いたら、またゴルフにでも連れて行ってやって下さい」
樹さんは会社のことにはいっさい触れずに、笑顔でそう切り抜けた。
「そうだな。よろしく伝えておいてくれ」
長峰会長は樹さんの肩をポンと叩くと、他の招待客のところへ行ってしまった。
樹さんはフウーと息を吐き出しながら、横にいる私に視線を向ける。
「まだ発表まではオフレコだからさ」
「大変ですね」
私がそう返した時だった。