正しい『玉の輿』の乗り方

「ほら、もう男はいいから料理でも取ってこいよ。菜子の好きそうなのがいっぱいあるぞ?」

樹さんは私の頭を両手で挟み、首を90度回転させた。

確かに中央のテーブルには、ローストビーフやらフォアグラやらトリュフやら、とにかく滅多にお目にかかれないような高級料理がたくさん並んでいた。

「わ~すごい。早速取ってきますね!」

一気にテンションが上がった。
お皿にたっぷりと乗せて戻って来ると、樹さんはワインを飲みながらクスクスと笑っていた。

「あの、よかったら樹さんの分も取って来てあげましょうか?」

何だか自分ばかり食べているのが恥ずかしくなり、途中で声をかけたのだけど、樹さんは首を横に振った。

「俺はあとでいいよ。それより、菜子。口にキャビアソースが付いてるぞ」

「えっ? どこですか?」

「ここだよ」

樹さんはいつものように指で私の口元をこする。

「あっ、髪にもついてるな。今、とってやるからジッとしてろ」

まるでサルのノミ取りのような光景に、周囲の視線が集中する。

「樹さん。いいですよ。自分で取って来ますから!」

これはさすがにマズいだろう。
来月には婚約発表だって控えているのに、周りから誤解されてしまう。

いくら樹さんが私を女として認識していなくてもだ。

私は樹さんの手を振り払い、パーティー会場を飛び出したのだった。

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