正しい『玉の輿』の乗り方
「彼はツーイーストの白崎社長ですよね?」
中谷さんが運転席から呟いた。
「はい。今度副社長に紹介して頂くことになってる方なんです」
「だからと言って、いきなり男の車に乗るのは感心しませんね。向こうがただの遊びだったら、どうするおつもりですか?」
「それは……」
そこまで考えていなかった。
確かにさっきの流れだったら、ただのナンパと同じだ。
「ちゃんと副社長から縁談という形で紹介されるまでは勝手に動かない方がいいと思いますけど」
「そうですね……。ご忠告ありがとうございます」
きっと彼は助けてくれたのだろう。
私はペコリと頭を下げた。
「別に礼を言われる筋合いはありませんよ。早くあなたの縁談が決まって、一日でも早く副社長から離れて欲しいと思っているだけですから。傷ものになっていつまでもつきまとわれたら、それこそ面倒ですからね」
中谷さんは前を向いたままいつもの口調でそう言った。相変わらず手厳しい。
「まあ、今回は自分の立場をわきまえて、あの二人の邪魔をしなかったことだけは評価しますが…。今後変な動きをしたら容赦なくあなたを排除しますから、そのおつもりでいて下さい」
中谷さんは全てをお見通しなのだろう。
鋭い視線を私に向けた。
「大丈夫です。何もしませんから」
私は窓の外を眺めながら、そんな言葉を返したのだった。