正しい『玉の輿』の乗り方
8 すれ違う二人

「おはようございます」

翌朝、副社長室のドアを開けると、上半身裸の樹さんが振り向いた。

「キャ!」

「ああ、悪い。今、着替え中」

色っぽい胸板を見せながら樹さんが笑う。

「もう…着替えてるなら鍵くらいしめて下さい!」

私は勢いよくドアを閉めて、自分のデスクへと戻った。

早くも現実を突き付けられてしまい、ため息が出る。

そっか。
昨夜は彩乃さんと泊まったんだよね。
分かっていたことだけど、やっぱりヘコむ。

ひとりで落ち込んでいると、着替えを終えた樹さんが副社長室から顔を出した。

「菜子。昨日は悪かったな」

「いえ。大丈夫です。それより、彩乃さんは大丈夫でしたか? 私との仲を誤解してたみたいですけど」

「大丈夫だよ。マンションの合鍵を渡したら元気になったから。まあ、外には連れていけないけど、彼女の不安もこれで解消されると思うから」

樹さんがニコリと笑う。

「そうですか。ちゃんと大事にしてるんですね」

「まあな。大事な婚約者だからな」

そんな返事が返ってきて、聞かなきゃ良かったと後悔する。


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