正しい『玉の輿』の乗り方
「ところでさ。俺もおまえに確認したいことがあるんだけど」
今度は俺の番。
「何だよ」と眉を寄せる樹に、不動産会社から取り寄せた書類を見せる。
「おまえ、葉山の別荘を売りに出してるだろ? しかも破格の値段で」
そう。
こいつは5億の価値のある物件を3億で売りに出していたのだ。
「いったい、どういうことだよ?」
「別に……あそこは俺の名義なんだから、俺がどうしようと勝手だろ。そんなプライベートなことまで調べて、秘書の仕事もずいぶんと暇なんだな」
樹は俺に嫌みを言いながら、鼻でフンと笑った。
「なあ、樹。そんなに売り急ぐのはどうしてなんだ? 綾野菜子の為か?」
そんな俺の問いかけに、樹は書類を突き返しながら素っ気なく言う。
「別に……ただ使わなくなったから処分するだけだよ。綾野菜子とは何の関係もない」
樹はスッと目を逸らした。
長い付き合いだから分かってしまう。
樹が何を考え、何をしようとしているのかを。
「なあ、樹。ちょっと冷静になれ。こたつや服を買ってやるのとは訳が違うんだぞ!」
「俺は冷静だよ! ちゃんと早乙女彩乃との結婚はする! だから、ほっといてくれ!」
樹はドンっと机を叩いた。
これ程、女に本気になった樹を見たことがない。
けれど、彼女との恋は叶わない。
樹がどんなに深く彼女を愛していようとも。