正しい『玉の輿』の乗り方
10 お嬢様の本性
パーティーから3日が過ぎた日曜日。
夕夏が佳子のお見舞に来てくれた。
「佳子ちゃん! 今日のお土産はフルーツタルトだよ。佳子ちゃん好きって言ってたから」
「うわ~夕夏お姉ちゃん、ありがとう!」
佳子は嬉しそうに手を叩く。
今日はいつもより元気そうでホッとする。
「まあまあ、夕夏さん、すみませんね」
夕夏に頭を下げる母の隣で、佳子がハッとした表情を浮かべた。
「ねえ、お母さん。夕夏お姉ちゃんにあの人のこと聞いてみようか?」
佳子の言葉に「そうね」と笑って頷く母。
「えっ、何よ? あの人のことって」
問い返した私には目もくれず、佳子は夕夏の腕を引っ張った。
「ねえねえ、夕夏お姉ちゃん。昨日ね、お姉ちゃんの会社の『副社長さん』っていう人が、お見舞に来てくれたんだけどね。あの人って、お姉ちゃんの彼氏なのかなあ?」
「は!? 彼氏な訳ないでしょ!!」
思わず叫んだのは私。
というか、樹さんが佳子のお見舞に来てくれたことさえ初耳だった。
お父様のお見舞いのついでにでも寄ってくれたのだろうか?
首を捻る私の横で、佳子が再び夕夏の腕を引く。
「ねえ、夕夏お姉ちゃん、何か聞いてない? お姉ちゃんは夕夏お姉ちゃんになら何でも話すでしょ?」
佳子は夕夏から情報を聞き出そうと必死だ。まだ10歳になったばかりだけど、こういうところは本当にませている。
「うーん。そうね~彼氏なのかなあ~?」
明らかに面白がっている様子の夕夏。
「ちょっと、夕夏! ちゃんと否定してよ、違うんだから!」
夕夏を睨みつけてそう言うと、それまで黙っていた母が口を開いた。
「あら、違うの? 残念だわ。あなたのところの副社長さん、佳子の為に募金活動をして下さってるそうじゃない。だから、てっきりお付き合いでもしているのかと期待しちゃったけど」
「えっ……募金活動?」
「あら、あなた聞いてないの?」
「し、知らない……」
一体どういうことだろうか?
どうして、樹さんが佳子の為に?
「私……ちょっと確かめてくる!」
私はバックを手に取り、病室を飛び出したのだった。