正しい『玉の輿』の乗り方

向かったのは1階にある携帯使用可能エリア。
電話で樹さんに確認しようと思ったのだ。

けれど、彼のスマホにかけたことを私は激しく後悔する。何故なら、『もしもし』と電話に出た人物が彩乃さんだったからだ。

「あ………えっと」

予期せぬ展開に言葉が上手く出てこなかった。
暫しの沈黙の後、彩乃さんが呟いた。

「樹さんならシャワーに行ってますよ?」

「えっ……あ、そうですかっ、すみませんでした! 失礼いたします」

私は思いきり動揺してしまい、思わず電話を切ってしまった。心臓が凄い早さでバクバクと鳴っている。

慌てて電話を切るなんて、きっと彩乃さんにも怪しまれたに違いない。これじゃ、まるで愛人みたいだ。

けれど、そんなことにも気が回らなくなるくらいの衝撃だった。

“樹さんならシャワーに行ってますよ?”

情事の後っていうこと?
生々しい光景が脳裏に浮かぶ。

思わぬダメージを喰らった私は、放心状態のままその場に立ち尽くしていた。

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