正しい『玉の輿』の乗り方
「よし、飾り付けも終わったし、パーティーの準備はこれで完了。そろそろ佳子ちゃん達を迎えに行かないとね」
朝早くから私の実家に来てくれていた夕夏が、踏み台からピョコンと降りてそう言った。
佳子達の乗った飛行機は11時に成田に着く予定だ。
BGM代わりにつけていたテレビの時刻は、9時半になろうとしていた。
「ほんとだ。早く出る準備しないと!」
私がテレビを消そうとリモコンに手を伸ばした時だった。
『次は芸能ニュースです!』
ワイドショーの司会者がそう告げて、テレビ画面いっぱいに芸能新聞の記事が映し出された。
【西宮麗華(24)熱愛発覚! お相手は宮内製薬のイケメン副社長(29) ニューヨークでの熱い夜】
「何これ……」
私の声に反応して振り返った夕夏が大声を上げる。
「は!? ちょっと嘘でしょ!」
西宮麗華というのは、モデル出身の超売れっ子女優だ。そんな人とどうして樹さんが!?
私は信じ難い思いでテレビを見つめた。
画面は切り替わり、今度は二人が親しげに食事をしている写真が映し出された。
少しボケているけれど、間違いなく樹さんだった。
くらっと目まいがした。
樹さんが浮気をしていたなんて…。
いや、私とは付き合っていた訳ではないのだから、向こうが本命なのかもしれない。
そもそも私とは両想いでさえなかったのかもしれない。
あまりのショックに何も考えられなくなった。
『西宮麗華さんは自身のブログの中でこんなコメントを発表しています。【仕事で来たニューヨークの街でずっと憧れだった幼なじみと再会しました。思い切って告白したら、なんと受け入れてもらえました。帰国した時に、皆さんには嬉しいご報告ができると思います!】 うーん。これは婚約発表という可能性も出てきましたね~』
司会者の言葉が更に追い打ちをかける。
まるで頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。
「菜子。早く彼に電話して真相を確かめてみなよ」
テレビの前で立ち尽くす私に、夕夏が携帯を手渡してきた。
「でも……向こうは夜中だから」
そんな弱気な言葉しかでてこない。
「何言ってるのよ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! ほら、早く!」
「う、うん……」
私は放心状態のまま携帯を開いて樹さんに国際電話をかけた。
けれど、電源が切られているらしく全く繋がらない。
「これが答えだよ……。もういいよ、夕夏。そろそろ空港に行かないといけないし」
怒りなのか、悲しみなのか、よく分からない感情に押しつぶされながら、携帯をバックの中へとしまった。
「きっと何かの間違いだよ」
そんな夕夏の言葉は私の心には届かなかった。