クールな次期社長と愛されオフィス
「そりゃ疲れるさ。宇都宮っていう名前を背負ってるだけでね」

「そうですよね。だって、世界の宇都宮ですもん」

そう言った私を部長は一瞥すると、プッと吹き出した。

「堂島は素直でいいな」

素直?

褒められてるのか馬鹿にされているのか、とにかくわからないけど失言だったと思い顔が熱くなる。

「すみません!」

「ん?どうして謝る?」

「だって、世界の宇都宮とか、なんだか偉そうなこと言ってしまって」

「逆にそんな風に言ってくれる方が俺は嬉しい。謝る必要なんてない」

部長は長く息を吐いた。

「誰もが俺を1人の人間としてではなく宇都宮家の人間として見ている。確かに俺の祖父が一代で築き上げた名誉ある地位だ。だけどすごいのは祖父であって俺じゃない」

その横顔を見つめながら頷いた。

「その地位があるために、お金に関わる人間の汚さを嫌というほど見せつけられてきた。信じていた相手が俺ではなく宇都宮家として近づいてきて、あるとき、ふと裏切るんだ。誰と話していても、俺と話している奴はほとんどいない。皆宇都宮家と話してるんだ。これほど孤独なことはないよ」

部長の目がふと寂しげに見えた。

同じお金持ちでも、亮とは全く違う。

自分の家柄やお金に頼らない、強さと弱さを秘めた部長はとても遠いようで身近に感じられた。



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