クールな次期社長と愛されオフィス
石庭の前に小さなベンチが置いてあった。

「座るか」

部長はそう言って座るよう私に促す。

言われるがまま私は部長に軽く頭を下げ座った。

そのすぐ横に部長が腰掛ける。

こんなに近くに横並びで座るのって、初めてかもしれない。

普段より近い部長の横顔に更に胸の奥が震えた。

「こないだは急に社長との会議を断って堂島には迷惑かけたな」

こちらを向いている部長の顔が近すぎて、私は前を向いたまま首を横に振った。

「社長から嫌なこと言われたんじゃないか?こないだ店で会った時、お前の浮かない顔がずっと気になっていた」

気にしてくれてたんだ。

「そんなことは・・・・・・私は大丈夫ですけど、部長は社長とは?」

「俺と社長?」

部長が眉間に皺を寄せた。

ふとマリカ先輩が教えてくれた社長の企みを思い出してうつむく。

部長は軽くため息をついて言った。

「そんなことお前が気にする必要はない」

「でも・・・・・・」

そう言い掛けて、少し差し出がましいような気がして口をつぐんだ。

「色んな憶測や情報が秘書内で飛び交っているようだから、堂島には伝えておいた方がよさそうだな」

部長はそう言うと、足を組み替え私の方に向き直った。

「実は、俺と社長は腹違いの兄弟なんだ」

え?

驚いた私は思わず顔を上げて部長の方に視線を向ける。

「驚いただろう」

「は、はい」

部長は軽く頷くと少し寂しそうに微笑んだ。

「子供の頃は2人きりの兄弟だったし普通に仲も良かったけど成長するにつれ、もともとプライドの高かった兄は俺に対して執拗にライバル意識を持ち始めてね。ことあるごとに俺のすることになんくせ付けてくる。まぁ、俺もマイペースだし人に何言われようと自分の道を突き進むタイプだから兄が俺の存在を疎ましく思うのもしょうがないのかもしれないが」

一呼吸置いて続けた。

「とりわけ今回の新規事業に関しては首を突っ込みたがるんだ。恐らく俺の行動を全て掌握して弱みを握りたいんだろう」

そう呟いた言葉から、私が心配しなくても部長は全部お見通しなんだと感じた。

やはり社長よりも一枚上手だ。

だからきっと兄である社長も弟の事が歯痒くてしょうがないんだろう。

でもまさか腹違いの兄弟だったとは。

普通の兄弟以上に一層気持ちが揺さぶられるのかもしれない。

何となくそんな気がして納得していた。









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