クールな次期社長と愛されオフィス
店が終わると、遠方への出張が入ってる以外はいつも車で迎えに来てくれた。

その日も駐車場で待ち合わせ。

車に乗り込んだ私は、お昼からお得意先での打合せで会社を離れていた部長に今日あった業務内容を手短に伝える。

会社以外では基本仕事の話はしないように言われてるんだけど、必要なことだけは部長も許してくれる。

「北海道の雪山産業さんとのアポ取れました。来週の火曜になりますが大丈夫ですか?」

「ん?火曜か。多分大丈夫だ。本社の経営会議は月曜だったよな」

「えっと、月曜でしたっけ」

私は慌ててバッグから業務手帳を取り出して確認する。

うん、間違いない。

部長の頭には一般の人の何倍もデーター量が入るんじゃないだろうか。

どんなことも大抵一度聞いたらインプットされてるんだよね。

あれだけ忙しいのに、自分の予定を間違えることはまずなかった。

「雪山産業さんって小樽に本社があるんですね」

「ああ。小樽はいい場所だ。アコは行ったことある?」

「いえ、北海道自体行ったことないです」

私は首をすくめて笑った。

「そうか。じゃ一緒に行くか」

「え?」

突然そんな提案をされて、思わず部長の横顔を二度見してしまう。

「部長の付き添いという名目で。小樽にはお前に見せたいおしゃれなカフェもたくさんあるしな。勉強にもなると思う」

「いいんですか?」

「いいさ、俺がいいって言えば問題ない」

やった。

思わず小さくガッツポーズをした。

そんな私を見て部長はくすりと笑う。

「アコは見ていて全く飽きない」

「飽きないって、褒められてるんでしょうか?」

「ああ、もちろん。どんな美人でも少し慣れれば飽きるが、アコは話せば話すほど、会えば会うほどその魅力に取り憑かれるってことだ。俺にとっちゃ最上の褒め言葉なんだけどな」

「ある意味美人じゃないって言われてるみたいですけどね」

そう言いながら軽くにらむと、部長は楽しげに笑いながら前髪を掻き上げた。

信号が赤になり、車がゆっくりと停車する。

なんとなく部長が私の方を見つめているような気配があったけれど、今見つめ返してしまったら自分の心が一気に持っていかれそうで敢えて前を向いていた。

「アコ」

運転席から名前を呼ばれる。






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