クールな次期社長と愛されオフィス
ドキドキしながら部長の方へゆっくりと顔を向けた。

その時、部長の顔が近づき唇にやわらかいものが触れる。

それは一瞬の出来事で。

驚いて瞬きをしたら、部長はもう涼しい顔でハンドルを持ったまま前を向いていた。

な、何?!

その涼しげな横顔を食い入るように見つめる。

あの、なんだか一人置いてけぼりになってるような。

この中途半端なキスは一体どうすればいいわけでしょうか?

「もっとしてほしかった?」

部長はそう言うと、口の端を僅かに上げて意地悪な顔をして笑った。

「な、何言ってるんですか!」

顔が熱い。

確かに・・・・・・確かにあんなキスはまるで焦らされてるようで、胸の奥が疼くような不完全燃焼な気持ちに陥る。

「北海道ではもっと長いキスしてやるよ」

部長はいつもはとろけるほどに優しいのに、時々こんな風にすごく意地悪で。

でも、そんな部長に翻弄されてる自分が滑稽で面白くもあった。

部長には、きっと何を言われても何をされても私は嫌じゃないのかもしれない。

それはきっとそれだけの存在だから。

何もかもが優れていて尊敬できて、きっと私に何かあった時は真っ先に助けてくれるっていう根拠のない安心感があった。

部長との北海道出張にときめきを抱きながら、まだ微かにしびれている唇を噛みしめて私も正面を向く。

信号が青に変わり、再び車は加速し始めた。

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