クールな次期社長と愛されオフィス
私にとっては初めての北海道。

飛行機から見る眺めはまるで海外のようだった。

広大な土地にどこまでも広がる緑が美しくて、思わず飛行機の窓に顔をくっつけて見入ってしまう。

「アコ、子どもみたいだな。お前ももう27のレディだろう?」

そう言って部長はからかうような表情で笑った。

「だってこんな素敵な光景、一瞬でも見逃したくないです」

「それにしても北海道が初めてなんて、旅行自体あんまり行ったことないのか」

「はい、大学を出てこの会社に入社してから珈琲店との掛け持ちでほとんどお休みがとれないので」

「そうか。俺よりも働いてるかもしれないな、アコは」

そうなの?

私って働き過ぎ?

だけど、すごく毎日が楽しい。

旅行以上に誰かに珈琲や紅茶を淹れて「おいしい」って言ってもらえることが。

そして、今は、部長のそばでこうして働けることも。

「また俺が連れてってやるよ。色んな場所へ」

窓から顔を離し、部長の方へ顔を向ける。

部長は熱く潤んだ瞳で私を優しく見つめていた。

この部長の瞳はとても色っぽくて、何度見ても慣れない。

胸の奥がキュンとしてそれ以上凝視していられなくなる。

私は黙ったままま、少しだけ笑って頷いた。

そんな日が来るといいなと思いながら。

飛行機はしばらくすると空港に着陸した。

荷物を持ってタクシー乗り場に向かう途中、部長が言った。

「俺はこれから雪山産業で商談だけど、その後も近辺の食品会社に回る予定だ。俺に着いてきたって暇だろうから、アコは夜まで好きに過ごせばいい」

「え?部長の付き添いしなくていいんですか?」

「せっかくの北海道だろ?1日くらいは楽しめよ。もし、時間があったらここに寄ってみたらいい」

そう言って、部長はスーツの内ポケットから取り出したメモ用紙を私に渡した。






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