クールな次期社長と愛されオフィス
「どうぞ」

私は小さく言うとその場を離れ、またカウンターに戻った。

男性はカップを持つとすぐに飲まず、自分の顔の前に持って来て香りを楽しんでいるようにも見えた。

「うん」

と軽く頷くとゆっくりと口元に流し込む。

なんだか妙にドキドキしていた。

自分が出した紅茶を飲まれている状況にこんなにも緊張したことがあっただろうか。

あのクールなイケメンは、どういう反応するんだろう。

あれだけえらそうな口叩いてるんだから、紅茶のなんたるかをある程度知っている人間かもしれない。

男性はゆっくりと、時々香りを楽しみながら飲んでいるようにも見えた。

お気に召した?

そして最後まで飲み終えると、男性はすくっと立ち上がり私の顔を見据えた。

感情の入らない鋭い切れ長の目はやはり緊張する。

次、何言われるんだろう。

「また来る」

へ?

男性はお金をカウンターに置くと、それだけを言い残して店から出て行った。

また来る?って。

私の淹れた紅茶、お気に召したってことと受け取っていいんだろうか。

表情も変わらないし、ほんと心の奥底が読みにくいタイプ。

なんて思いながらも、きれいに飲み干されたティカップを見ながら少しだけ嬉しい気分になっていた。

「さっきの男性客、すごくイケメンでしたよね?」

食器を洗っている横でミズキが私にささやいた。

「そう?無愛想なお客だったわ」

私は眉間に皺を寄せて、わざとらしくミズキに不快な顔をしてみせた。

「イケメンは無愛想でもイケメンなんですねぇ」

ミズキはそんな私をスルーしてうっとりとした表情でコーヒー豆を挽いていた。



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