クールな次期社長と愛されオフィス
突然、社長の口から「丸宮珈琲店」の名前が出たことに、心臓が止まりそうだった。

一瞬意識が遠のいて足がふらつく。

「君も秘書という立場でこの会社が副業禁止というのは知っているはずだろう?」

社長はさらに嫌味たっぷりの口調で続けた。

どうしよう。

この状況。

どうして社長はこのことを知ってるんだろう?

頭の中がパニックだった、どんな言い訳も嘘も浮かばない。

ただ社長のするどい視線に必死に堪えるのがやっとだった。

「君が否定しないってことは、それが真実だと理解していいんだな」

社長は動揺している私をおもしろそうな顔で見ながら、ティーカップを口につける。

「ど、どこからそんな話を・・・?」

なんとか震える声で尋ねる。

「ん?まぁ私くらいにもなると、あらゆる情報がその他大勢から入ってくるんでね。君も気をつけた方がいいぞ。どこで誰に見られてるかわからない。恐い世の中だよ、全く」

そう言いながら、全く怖がっている様子のない社長は高らかに笑った。

私は何が何だかわからなくなって、首を横に振るしかなかった。

どこで誰に見られてたっていうの?

それを誰が社長に伝えたというの?

私の信頼する友人の顔しか思い浮かばない。誰もそんなひどいことするはずがないもの。

「もう一つ、君は秘書という立場でありながら、その立場を利用して上司をそそのかしているらしいね」

「え?」

どいういうこと?

胸の奧がぎしぎしと痛んでいた。

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