秘める二人の、叶わぬ恋の進め方。

3秒間、九条さんと最上さんが凍りついたように見つめあっていたのがわかった。

‥反らしたのは九条さんの方だった。

小さく微笑んでお辞儀をして、一緒にいた男の腕を引いて離れていく。


「‥‥‥‥。」


何と声を掛けたらいいのかわからなかった。
最上さんの表情が、
切なそうに小さく歪んだ。

その顔を見て、
あぁやっぱり敵わないとおもった。

敵わないって─‥何が。

真っ白になって、
傘に打ち付ける雨の音がやけに頭に響いた。

「‥‥お腹が空きました」

‥‥この状況でなにを言ってるのよ私。

とりあえず何か話さなきゃと
口からこぼれた言葉はそれだった。

最上さんが一瞬ぽかんと小さく目を丸くしてから、
ごめん、早く行こうと言って微笑んだ。
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