秘める二人の、叶わぬ恋の進め方。
出航時間ギリギリまで黒川に粘って運転してもらっている間に、
嘘に嘘を重ねるようにして説明した。
東京湾に九条さんを送る時間はあるのに
最上さんにそれを渡す時間の余裕は無いのかなどとつっこまれなくてホッとする。
──そして。
「到着いたしました」
東京湾の乗船場に遠回りしながら到着し、
車が停まった。
九条さんが隣の座席に降ろしていた、
私が渡した紙袋を手に取って腰を浮かせる。
「責任持ってお届けしますね」
「…本当にありがとう。
あとこれ、乗船券。船に入る時に見せて。2時間後に出航だから、船を出るのはあまり急がなくても大丈夫だと思う」
そう言って九条さんが乗船券──クルーズのチケットを受け取る。
「あと…最上さんに、これはクリスマスプレゼントだって伝えて」
「わかりました」
そう頷く九条さんの笑顔は、
確かに昔テレビで見たあの女優さんにそっくりだった。
黒川が車の扉を開け、車を降りて九条さんが小走りで船の方へ向かって行った。
「ありがとう黒川。
ごめん、付き合わせて」
黒川と二人になった車内でそう呟く。
「いえ。
でも、本当に良かったんですか?」
「良かったも何も…。
初めから最上さんとは本当の婚約なんてしてないって言ったら驚く?」
隠すつもりだったのに、
つるりと口から言葉が漏れた。
あっと思ったのと同時に、
黒川にクスっと小さく笑われた。
「驚きません。最上さんと今宵様がお見合いされた時、今宵様から最上さんと2人でお話がしたいと仰ったとお父様にお聞きした時から勘付いていました」