秘める二人の、叶わぬ恋の進め方。

目を丸くしたままそれを受け取る。

「今宵さんと柊ちゃんにとって、すごく大事なものなんだって。何の事だか分かる?」

「え?あー…」

…いや、全く分からない。

大事な物だと言って渡されたこの紙袋に入っている中身は、どう見たって菓子箱にしか見えなかった。


「今宵さんは仕事があって渡せないから代わりに渡して欲しいって。でもわざわざ送って貰っちゃった」

「え、送って…?」

「あ、運転は別の男の人だったよ。
えっと…じゃあ私もう行くね。
これも渡せた事だし」

そんな若菜の言葉にハッとして
紙袋に落としていた視線を上げた。

もう行くって、
この船の出航時間は確か─…

「若菜、無理だ。」

フロントに吊り下げられていた時計を見て確信した。
踵を返そうとする若菜の右腕を掴んで引き止める。

「え…」

いきなり腕を掴まれ驚いたのか、
若菜がきょとんとした顔で俺を見る。

どういう事なのか尋ねるように若菜が小さく首を傾げたのと、出航のアナウンスが流れるのはほぼ同時だった。

「出航って、あと2時間後じゃ…」

若菜が青ざめるのが目に見えてわかった。
そんな若菜を煽るようにして、出航の汽笛が客船に響いた。
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