秘める二人の、叶わぬ恋の進め方。
車だったら問題は無いのだろうけど、
柊ちゃんのマンションは会社から徒歩10分くらいのすごく近い所にたっているから、私達はいつも徒歩で通勤しているのだ。
そんなに優しい雨ではないし、今日はすごく寒いし、雨に降られたら冷えて柊ちゃんが風邪を引いちゃうかもしれない。
「あー、俺も持ってきてない」
「だよね。天気予報でも何も言ってなかったもんね」
そうやってがっくりと肩を落としていると、いきなり柊ちゃんがコートを脱ぎ始めた事に気がついた。
え‥こんなに寒いのにどうして脱いでるの?
「柊ちゃん、一体何して‥‥わっ!?」
不思議に思って尋ねようとすると、いきなり柊ちゃんにコートをバザっと頭に被せられた。
長身の柊ちゃんのコートは、頭だけじゃなくて自然と私の上半身も覆った。
柊ちゃんのいきなりの行動に、目をぱちくりとさせる。
「柊ちゃ‥‥」
「─走るぞ」
ええっ。
そう声をあげる間もなく、柊ちゃんが私の手を取って雨の中へ飛びこんだ。
どしゃぶりの雨の中を、柊ちゃんに手をひかれて全力疾走する。
「はぁ‥‥っ、柊ちゃん速い‥!」
柊ちゃんがあまりにも速いから、一緒に走っているというよりは、ひっぱられているような感じだった。
右手は柊ちゃんにつかまれているので、
左手で頭からコートが落ちないように必死に押さえる。
アスファルトにたまった水が跳ねて冷たい。
それでも、こんな歳になって雨の中を全力で走る事なんてまずなくて、走りながら思わず笑いが止まらなくなった。