秘める二人の、叶わぬ恋の進め方。



「柊ちゃん、ネクタイ曲がってるよ」

「え、‥‥あぁ」


そんな会話が聞こえたからだ。
思わずサッと壁に身を隠してしまう。

柊、というのに引っかかった。
‥‥そうか、あの人が私の婚約者。

体は壁に隠しつつ、顔をちょっとだけ覗かせる。

柊ちゃん、といって少し背伸びをしながらネクタイを直してあげる彼女。

女の私からみても、
一目で可愛いらしい人だなと思った。

少し低めの身長に、ミディアムな長さの黒髪をゆるく巻いている。どこか小動物を思わせるような顔立ち。

社長をあだ名で呼ぶ仲なのだろうか。
だとしたら歳も近いはずだが、どこか少女めいたあどけなさがある。

これぞ、
守ってあげたくなる女の子、って感じ。

親族か、秘書のどちらかだろう。

それにしてもまぁ私とは正反対だ。

そんなことを冷静に考えながら、とても出てはいけなくてとりあえず留まる。

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