Better*honey―苦くて甘い秘密の恋―
「…と、音!!」
いきなり沙織が焦ったような、興奮したような顔で
私に近づき、軽く耳打ちしてくる。
「あそこ、!!」
沙織が指差す方向へと目を向けてみると…
「えっ、…う、うそ…ッ」
……。
そこには、紛れもない、
"高瀬さん"がいた。
…私は、夢でも見てるの??
これは私の都合の良い夢…??
私が高瀬さんのこと好きすぎて夢でも見てるの?
…これこそ、
運命だ、と思った。
「やっぱ、高瀬さんだよね!?」
そう、耳打ちする沙織に何度も頷く。
沙織も運命じゃない?と目を丸くして言った。
「ちょ、今1人っぽくない!?
絶好のチャンスじゃん!」
行っておいで、ほら!と、
背中を押されて、ハッ!と我に返った私は、
恐る恐る高瀬さんへと近づいていった。
「…あっ…」
私に気づいていない高瀬さんは
ドンドンと先に進んで行こうとする。
追い付いていくのに必死で、
話かけるなんて、…。
でも、このチャンス逃したら…
話せないかもしれない。
このチャンスは、
神様がくれた、
最初で最後のチャンスなのかもしれない。
なら、このチャンスは…逃せられない。
「…ッ…」
や、やっぱり、こういう時って
上手く声が出てくれないんだ。
緊張で、声、変になるかもしれないし…
あぁあぁー!!!もう、
どーにでもなれっ!!
「たかせさん!!!!」
ありったけの大きな声が出た。
少し裏返った気もするけど…。
心臓が破裂寸前ってくらい、
バクバクッと鳴り響く心臓の音。
心臓が飛び出るんじゃないかってくらい…
全身がバクバクッと鳴ってる。
「…え、…」
振り向き、私を見てはかなり驚いたみたい、
目を大きく見開いた高瀬さん。
また、
高瀬さんの目にはしっかりと私が映し出されていると
思うと更に早くなる鼓動に、
収まれ、収まれ、…と何度も心の中で繰り返す。
「佐藤さん、?凄い、偶然ですね」
偶然…??
これって、偶然?
だって、ここ。
会社からかなり離れたショッピングモールだよ?
こんな、同じ日に同じ場所で
会うなんて…
そんな偶然、よくあること?
私は…
運命だ、って思ったよ。
「…えっと…」
まだ、頭が上手く働いてはくれず、
話したいのに、言葉が出てこない。
言いたいことも、聞きたいことも、
いっぱいいっぱいあるはずなのに…
目が合った瞬間、
何も言えなくなるなんて。
「佐藤さんも、ここで買い物ですか?」
気を遣ってくれたのか、話しかけてくれた。
「っ…い、いえ。今日は、その、
さ…じゃなくて、清水さんと遊びに…!」
こんな力を振り絞って話をするのは初めて。
ほんっと、高瀬さんと出会ってから、
初めて尽くしだ。
「そうなんですか!楽しんで。それじゃ、」
少し微笑んで、私に背を向け歩こうとする高瀬さんに
焦りを感じる。
ダメだ。ここで、何かアクション起こさなきゃ。
相手に、ちゃんとしっかり、印象に残ることしなきゃ。
何か…何か、ない??!
頭をフル回転させて考える。
好きです…って言う?
いやいや、そんないきなり言われても困るよね。
じゃあ、…
「あっ、これだ!!」
携帯カバーの中に常にしまっている
小さなメモ用紙を手に、
だんだんと遠ざかっていく高瀬さんの背中めがけて
駆け出した。