アナザーワールド
前の世界で親父は死んでいなかったから、俺が家族を守らなければという使命のようなものがあった。


そうでなければ――もし親父が生きていたら――俺も母や妹同様、パニックと恐怖で混乱しているだけだったかもしれない。


生き延びる為には何が必要かというのをドラマや映画で学んでいたのと同じように、動き回る死者たちを倒す方法も学んでいた。


ドラマや映画によって、ゾンビ化する原因は様々だったが、倒し方はどれもこれも同じだった。


頭を潰せばいい。


死者が動くのは、脳の一部が機能している所為だ。


体は死んでいるから狙っても意味はない。


とにかく頭だ。


死者の頭蓋骨を割って脳を潰せばいい。


それを知っているかどうかが生と死を分けた。


ドラマや映画を見ていたからこその勝利だった。


ただ、ドラマや映画とは違うところも当然ある。


違うと言うより分からなかった事と言うべきかもしれない。


ひとつはニオイが酷い。


死体が歩き回ってるのだから当たり前と言えば当たり前なのだろうが、腐敗した人間がこんなにも臭いとは思わなかった。


その腐敗した人間が群れを成してそこら中にいるのだから、どこに行っても臭くて仕方ない。
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