アナザーワールド
慣れるまでに時間が掛かった。


今もまだ完全に慣れたという訳でもないのだが。


もうひとつは、そう簡単に頭が潰せないという事。


ドラマや映画なんかでは、一撃でゾンビの頭を潰してたりしたが、実際は何度も殴らないと潰れてくれない。


腐敗した死者であろうと、頭蓋骨は固い。


だから一度に戦える死者の数は酷く少ない。


そして最後にもうひとつ。


死者であろうと、人間のカタチをしている者を殺すというのは、罪悪感を抱かせる。


生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから仕方がないと、頭では分かってる。


だけど気持ちの方が追い付いてこない。


無法地帯になった世界でも、罪の意識が酷く残る。


それは俺が生きる人間だからだろう。


死者たちは、何も感じず人間を食らい、殺している。


ふう――と、息を吐いた。


壁に背を付け座っている場所から、窓の外に目をやった。


前の世界からずっと住んでいるマンションの部屋は、4階だから窓の外の景色に死者はいない。
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