アナザーワールド
だからこうして窓の外を眺めていると、世界が元に戻ったんじゃないかと思う時もある。


そうであったらいいという希望に過ぎないのだが、そう考えてる時は少し気持ちが楽になる。


現実逃避ってやつだろう。


逃避したいこの現実で生き続ける事を選んだのは、守るべき家族がいるからでしかない。


もし俺がひとりだったら、自らの死を選んでたかもしれない。


家族がいるから生きようと思えた。


家族を生かすために頑張ろうと思えた。


こんな地獄のような世界でも、何とかやってこれた。


母と妹に危険がないように、ふたりを外には出さなかった。


部屋の中にさえいれば危険はない。


こんな世界でも生きていける。


そう――思っていた。


三日前、母が死んだ。


高熱が続いていたのと、こんな世界になってしまった事での心労の所為だろう。


前日の夜、寝る前に「おやすみ」と、か細い声で言ったのが最後の言葉だった。


翌朝、微かに聞こえた物音に目を覚ますと、母は死んでいた。


隣に寝ていた妹を食っていた。
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