雪のなかに猫
ねぇ、ちょっと待って。私は確かにお寿司が食べたいです。と言ったけど……何も回ってないお寿司じゃなくてもよかったんじゃないかな?
高級お寿司屋さんの入口に立ってポケーっとしていると何故か当たり前のように私の手を取り席に座る綾ちゃん。
「遥ちゃん!ここはとても美味しいんだよ!」
「うん。なんとなくだけど……テレビとか……人気店の雑誌とかで見たことあるかなー。」
次元が違うんじゃないか。と一人心の中で呟きながらも物凄く落ち着かない。ソワソワしていたら誠さんとげっそりした達也さんも入ってきた。隣に座った誠さんの耳に口を近ずけ
「あの、回ってないのですが……」
「ん?あぁ………嫌だった?」
「いや、と言うか……なんと言うか……」
モジモジとする私に誠さんは苦笑しながらも少しだけ膨れながら私の頭を撫でる。
「また、心配してるの?大丈夫だから、彼女になにかしてあげたい。って思うのも彼氏の仕事だから気にしないで?遥は何も気にしないでいいから、ね?」
「………誠さんはそうやって……甘やかせすぎもダメですよ。」
「ん〜。それは困ったな、甘やかせたいと言う俺の願いは叶えてもらえないのかい?」
「………」
ああ言えばこう言う誠さんに黙り込んだら何故か得意げに
「それに安心して、此処は俺の知り合いの店だから。割引はしてくれるよ」
と言う。だから私はますます困った。こんな高級なお店に知り合いが居る誠さんの彼女になってもいいのかどうか。でも、まぁ、今頃かな。彼が言った【逃がしてあげれない】という言葉に私は頷いた。
それに、私はもう……彼から逃げることも、彼を逃がすことも出来ない。だって私、彼のことが好きだから。
「ありがとう誠さん。」
「ん?何が?」
「え?お寿司?」
そう笑えば笑い返してくれる。
だから私は忘れていた。あの日の雪の日のことを。