理系教授の秘密は甘々のはじまり
そこは全国展開している大きな本屋。
とあるビルの1階から5階が書店になっていて、専門書から雑誌まで様々なジャンルが売られている。

「教授、どうしてここに?」

波実は瞳ををキラキラさせながら言った。

「本が読みたくなる頃かと思って」

葉山が優しく微笑んでいる。

波実は一瞬、その意外さに目を見開いたが、素直に善意を受け入れた。

「ああ、教授オススメの文献があるんですね」

「違うよ。そんなの学会会場でも売ってただろう。もっと他に読みたいものがあるんじゃないのか?」

葉山がまた笑った。とても自然で胸にキュンとくる素敵な笑顔だ。

「私が週末に求めてるのは漫画や恋愛小説なんです。でも、明日は演題発表だから、今週は諦めようと思ってて」

波実ははにかんで告げた。

「ホテルに帰ったら発表のリハーサルをしてやる。その後で好きなだけ漫画でも本でも読めばいい」

「本当ですか?京都で本屋に来れるとは思ってなかったから、なんか嬉しいです」

波実は、なぜ葉山が波実の本好きを知っているのかということには疑念も抱かずに、葉山に繋がれたままの手をもう片方の手で握り返した。

「じゃあ、1時間後にここに集合でもいいですか?」

「いや、俺も一緒にいく」

「え、でも漫画とかですよ」

「俺も読むから」

「へえ、意外ですね?でも共通点ができて嬉しいかも」

波実の言葉に葉山が破顔した。それは本当に嬉しそうで、波実もつられて笑顔になった。

二人は手を繋いだまま、漫画コミック売り場に向かった。
その様子は端から見ると仲の良いカップルに見えていることに、波実は気づいていなかった。
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