理系教授の秘密は甘々のはじまり
「よし、5分50秒。質問対策もこのくらいでいいだろう。会場には、共同演者で俺もいるから、いざというときには心配しなくていい」

波実はその言葉を聞いてやっと安心することができた。

今は22時半。これから24時まで漫画を読んでも明日に差し支えないだろう。

そう考えていると、なぜか葉山が波実のベッドにうつ伏せに横になるのが見えた。

「あのー、教授,,,?」

「疲れた。休ませろ」

葉山はそういうと、ヘッドライトの近くに置いていた漫画コミックに手を伸ばす。そして、自然な様子でそれを読み始めた。

波実は一瞬、ポカンとしたが、すぐにその状況を受け入れた。お世話になった教授を無下に追い返せない。

波実は諦めて、さっき居酒屋からの帰り道で購入したお茶のペットボトルを手渡した。

「良かったら,,,」

「サンキュ、お前も隣で横になって、これ、読めよ」

葉山はすっかりくつろいでいて、自室に帰る様子はない

波実は頷くと、葉山の隣に足を伸ばして座り、ヘッドボードに背中を寄りかからせた状態で漫画を読むことにした。

教授と教え子が、学会先のホテルの一室で漫画を読んでいる。

考えてみればシュールな状況だ。しかし、この二人にはそんな緊張感は感じられない。

波実が漫画の2冊目を手に取ろうとした時、読みかけの漫画を手にしたまま、隣で葉山がうつ伏せで眠っているのに気づいた。

"寝顔は少年のように美しいな"

波実は、葉山を追い返すのは諦めてルーム灯を消した。そして自分も横になると、ベッドカバーを自分達に掛けた。

"たまたまセミダブルのベッドでよかった"

呑気な波実は、この危険極まりない状況に抗う気配も見せぬまま深い眠りに落ちていった。
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