理系教授の秘密は甘々のはじまり
「鈴木さん」

坂本が嬉しそうに波実と葉山に近づいてきた。

三人は会場入り口から少し離れたところに移動する。

波実は、

「坂本さん。さっきはご質問ありがとうございました」

と坂本にお礼を言った。

「いえ、素晴らしい内容でしたし発表も完璧でした。思わぬ葉山教授のレクチャーも聞けましたし」

坂本は憧れの葉山教授に話しかけたくてうずうずしている。

しかし、そんな事情を知らない葉山はなぜか機嫌が悪そうだ。

「知り合いか?」

「昨日のポスターセッションで知り合いまして。はじめまして。京都K大の坂本と申します」

坂本はなれた手つきで葉山に名刺を渡す。

「葉山先生!ここにいらしたんですか」

講演の担当職員が慌てて3人に割って入ってきた。

「あちらで打ち合わせとスライドの確認をお願いします」

葉山は、これから11時からの講演の準備があるのだ。

坂本はもっと話したかったのか、残念そうな表情を浮かべた。

「鈴木さんも葉山教授の講演聴くよね?一緒に会場に行きましょう」

「あ、はい」

坂本の言葉に葉山が振り返る。

「鈴木もこっちに来い」

「えっ?」

講師控え室に院生が同席するなんて通常ではあり得ない。

「いいから、早く」

「は、はい」

いい加減この強引な葉山のノリには慣れてきつつあった。こんな時は深く考えないのがコツだ。

波実は坂本にお辞儀をするとその場を立ち去ろうとした。

「鈴木さん、あの、れ、連絡先を教えてくれないかな」

呼び止める坂本の声に波実が困惑していると

「鈴木早くしろ」

と葉山の苛立ったような声が聴こえた。

「じゃあ、後で」

波実は、再度お辞儀をして、葉山のもとに急いだ。
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