35階から落ちてきた恋 after story ~you are mine~
episode1 王様のため息
「いつになったら俺を『進藤さん』って呼ぶのをやめるんだ」
「え、いつ?ってーいつでしょう?」
ふざけてんのか、お前は。
首をかしげる果菜の頬をぶにっとつかんでちょっと引っ張る。
「いだぁあいい~ひんろーしゃん、ひどぉ~い」
ダメだ、そんな可愛い顔してちょっと涙目になってみせても。
「だから『進藤さん』ってのをヤメロ。何回言ったら変えるんだ」
俺に引っ張られた頬をさすさすとさすりながら「だってぇ」と困った顔をする。
だから、それも可愛いからやめろ。
プロポーズもして一緒に暮らしているのに果菜は俺のことを『進藤さん』と呼ぶ。
ああ、いや名前で呼ばれたことが数回あるか。
1度目はプロポーズの日。
新居を探す際に「月がきれいに見えること」という条件で探したと果菜に伝えた時、確かに言った。
「ありがと、貴斗」と。
2度目はうちの両親に会わせた時。
果菜から見たら両親も弟も全員進藤さんだから仕方なかったのかもしれないがその日は『貴斗さん』と呼んだ。
以上。
過去2日間のみ。
「いい加減にしろよ」
「でも、何て呼んで欲しいんですかって聞いたって言わないくせに」
頬を膨らませてスネ気味の果菜が呟く。
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