35階から落ちてきた恋 after story ~you are mine~
俺が誰かこの女性は俺のことがわかっていないのだろうか。
若者を中心に人気のロックバンドLARGOのボーカル、ユウキなんだけど。

ここに俺の住所、名前を書けというのか?
ボールペンを持ったままためらっていると、
「どうしました?まさか、記憶喪失とか・・・なんてことじゃないですよね?手に力が入りませんか?」

俺のためらいが違う方向に取られたらしい。
この人は本当に気が付いていないのか俺を知らないのかもしれない。

そうだ、それに今日の俺は三日間半徹夜で無精ひげが生え、頭は伸び放題でぼさぼさ。よれよれのTシャツにジャージパンツ。
どうみても芸能人には見えないはずだ。それどころかまっとうな暮らしをしている社会人にも見えないだろう。
それにユウキは芸名。

「あの、やっぱり具合が悪いんじゃないですか。ここは入院設備がないので入院はできませんけど、ご希望であれば他の病院にお願いしてみますけどどうしますか?」

「いえ、そういう事じゃありませんから」

住所氏名を正しく書いて彼女に渡した。

「お名前は、上夕木由幸さん、かみゆうき よしゆき、この読みかたで間違いないですか?」
「はい」

「続いて問診もとらせてくださいね。今治療中のご病気はありますか?」
「いいえ」

「今まで罹ったご病気や大きなけがなども教えて下さいね」

・・・いつもなら具合が悪い時の女性の声は耳障りで。
体調を崩すとスタッフの女性たちだけでなく付き合っていた女性も遠ざけていた。
だが、何故だろう。彼女の声は耳障りがよくて、もっと聞いていたいと思わせる。
< 48 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop