35階から落ちてきた恋 after story ~you are mine~
バタンバタンと音がして新たな女性の声がした。
「あ、美知子さん」
ーーー
彼女の声は聞き取れたけれど、その先の会話の内容はよくわからない。
何か小声で話している。
そのままぼんやりとしていると、カーテンの向こうから耳障りのいい彼女の声がした。

「上夕木さん。タクシーが捕まらないのでうちの先生がお送りしますね。ゆっくりでいいのでお支度してください。お手洗いに行かれるようならここを出て右側にありますからどうぞ」

「これ以上の迷惑をかけるわけには」
「いいんです。こんな時、患者さんは甘えても許されるんです。少なくともここのクリニックではね」
にこりとして、でも、譲らないって感じの芯の通った彼女の表情に俺は簡単に折れた。

「・・・よろしくお願いします」
「はい。モチロンです。お任せください。あ、私がお送りするわけじゃないんですけど」ふふふと笑う。

その笑顔につられて俺も笑顔になってしまった。
何だろう、この癒される感じは。
今まで感じたことのない穏やかで寄りかかりたくなるような雰囲気は。


「上夕木さん、車で送ります。準備はいいですか?」
先生がベッドまで迎えに来てくれて、恐縮しながら立ち上がった。
その傍らにはもう一人彼女より年上の女性がいた。さっきの物音はこの女性のものだったらしい。

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