未来を見るなら、君と一緒に
「んー、疲れた」



最寄り駅にバスが到着して、お金を払って降りる。
うーんと伸びを一回して、アパートへと歩く。



「……何時だろう」



ふと、腕時計をみてはたと気がつく。



「あたし、帰れない」



時間は19時をさしていた。
絶対に、家の前には賢晴がいる。
今日だけ来ていないなんてことあるはずがない。

陽くんのことで、頭がいっぱいになっていて、重要なことを忘れていた。

あたしは、賢晴がいないことを願いながらそーっと家の方向へと歩く。



「なーにしてんの?」



後からそんな声が聞こえたのは、1歩を踏み出してすぐだった。



「……賢晴」



声ですぐにわかった。
そーっと振り向いてもその事実は変わることがない。



「やっと1人でいる」



ニッコリと笑う賢晴に背筋が凍る。



「あ、あたしもう帰るから……」


「ん?今日帰るのはそこじゃないよ」



ニッコリとした表情を崩すことなく、あたしの腕を掴む。



「やめて、賢晴。お願いだから」


「やめない。やっと2人になれたんだよ」



あくまでも表情を変えない賢晴が怖くて仕方ない。

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