未来を見るなら、君と一緒に
「……賢晴?」


「お前は自分の意見なんて持たなくていいんだよ」


「どういう……?」



〝どういう意味〟かききたくて、でも言葉は途中で出なくなった。
だって、自分の大学時代を思い出してハッと気づいた。

あたし、大学時代、いつも賢晴と一緒だった。
賢晴が行くところについていって。
就職先だってそうだ。



『俺ここ受けるから、お前も受けろよ』



そう言われて、受けて2人とも受かったんだ。

いつだってそうだった。
賢晴かいるから、賢晴と一緒に、賢晴がしたいことを。
それだけをただ思ってた。
大学時代のあたしに自分の意見なんて述べる隙はなかったんだ。



「俺の思う通りに行かないと腹立つ」



彼のイライラは見るからに顔に出ていた。



「け、賢晴……」



なんだか怖くなって、彼の名前を呼ぶ。



「俺の知らないお前になるなよ」



あたしの腕をギュッと掴んで、部屋の中を歩いていく。



「賢晴……?」



彼の歩いていく方向に何があるのかあたしはわかっている。
長年この部屋に一緒にいたんだから。

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