未来を見るなら、君と一緒に
イライラしているなら、そんなこと放っておけばいいのに。
むやみに放っておけないのは、本来の賢晴は優しいからだろうか。



「結局、なにもできないんだもんな」



昨日の夜、好きにしていいと言ったあたしの頭をポンッと撫でて離れた。

どうしたのかと聞いたら、どうやらあたしは自分で気づかないうちに泣いていたらしい。

賢晴に言われて、頬を触れば涙の感触があった。

別に悲しいなんて思っていなかった。
なんの涙だったのかもわからない。

傷つけたいと思ってるくせに。
涙をみて怯むなんて、最初からこんなことしなきゃいいのに。

賢晴のことを好きになったのは間違いじゃなかったって思ってしまうあたしは自分でも甘いと思う。



──ガチャンッ



と乱暴にドアを開ける音が聞こえた。



「うそ、もう帰って……?」



時計を見ても時刻は10時。
予想外の早い帰りになんだか怖くなって布団に潜る。

寝ていると思ってくれていいから、すぐにまた仕事に行ってほしい。

なんて思っていると、ふわっと布団の上から抱きしめられる。



「え……」



胸をぎゅっと掴まれるような匂いに布団からそっと顔を出した。

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