帰りたい場所
トントン拍子ではあったけれどそれなりの婚約期間もあったにもかかわらず、大和さんと私はお泊まりや、どちらかの家で相手の帰宅を待つ等のドキドキイベントは攻略出来ていない。上司の目がとてつもなく厳しく、ことごとく邪魔をされてしまったのだ。まあ、仲人には逆らわないのが一番だ。いい人には変わらないし。
そんなこんなで結婚式も終わり、新婚旅行は夏休みまでお預け、翌日からは普通に出勤となった大和さんを、今日は彼を含めた社内の皆さまから薦められるままにお休みを取得した私が送り出す。
「いってらっしゃい」
ドキドキイベントに死にそうだ。初めてづくしなんてレベル高すぎだろうと上昇する心拍数を気にしながら、いってらっしゃいは平静を装いこなした。それには少々理由もある。
「……いってきます」
にこやかに送り出す私とは裏腹に、大和さんの表情は少し強張っていて。
気を付けてねのひとことは、小さすぎて聞こえなかったようで。玄関の扉が、重い重い音を立てて閉まった。昨夜、初めて二人でここに帰ってきたときの音とは別ものに感じる。式の余韻に酔っていただけなのだろうか。
初日からこんな考えではいけない。私のネガティブ加減が現状を作ってしまっているのだと、雑念を追い払うようにその日は掃除に励んだ。