帰りたい場所
 
勝手に大和さんの熱量を感じてしまい、私はそこで愛情を口にする。すると、大和さんからも同じものを返してもらえて。改めて再確認したかったのだと、不安だった心の片隅を吐露してしまえば、ごめんと謝られた。


「ずっと、俺だけの、花菜からの"おかえりなさい"が欲しかったんだ」


そこまで親しくはなく、社内ですれ違えば挨拶する程度だった私たち。当たり前に交わされるやりとりに、大和さんはいつしかその先を望んでくれるようになり、自分にだけのものを沢山願うようになった。


"その"言葉は大和さんにとって特別で、ご両親からもっと欲しかった愛情と安心感の象徴の言葉だった。ある日、いってきますの次にあると疑いもしなかったけれど……叶うことなく、お別れしてしまったのだと。


私からのそれを、独占してしてしまいたいと、苦しくてたまらなかったと、泣きそうで泣かない顔で教えてくれた。


ひとことを望むだけでなく、私のことを好きになってくれて、大切に想ってくれ、誰にも渡したくなくて、断りづらい状況を作って、大和さんは私と結婚をしたらしい。


「花菜がくれる全部が嬉しい。俺、多分ずっと寂しかったんだな」


家族というものに密かに飢えていた大和さんが、心の細やかな部分までも私を欲してくれて嬉しかった。


嬉しい。嬉しい嬉しい。大和さんがこれからも、今よりももっと、幸せでいられるような人物で、私はありたい。


ずっと、強引にお見合を進めたことに罪悪感を抱いていた大和さんは、私を大切に想ってくれながらも緊張していたのだという。私があまりにも淡々と受け入れていくので、不安だったのだと。


「そんなの……私だっておんなじです」


もう疑うことはなくなった、感じる隠されていた熱量を詰ると、またごめんと謝られた。


けれど、大和さんに緊張を与えてしまっていた私にも原因はあるのだと反省し、本日一連の流れでもっと愛しさが増してしまったどうしてくれると詰め寄れば、大和さんはとてもとても、その端正なお顔を惜しげもなく綻ばせた。




とても幸せな、結婚をしました。






――END――

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