七夕エンドロール
「うん」
「あの美少女で、勉強も運動もできて、性格も天使な花を⁉顔はいいけど、それだけで、顔の割には運動神経も勉強も中の中の据山くんが?」
「お前なぁ・・・・・・」
「なんで・・・・・・?」
「お前が好きだから・・・・・・」
うぐ、思わず言葉を飲み込む。
据山くんが私の事を好き?
・・・・・・。
そんはず、ない!
「嘘でしょ?」
「いや、まるきり嘘ってわけじゃないんだけどな・・・・・・」
嘘だ。だって、私達はここ何年も口をきいていない。
私は黙って据山くんを睨みつける。
据山くんはそんな私の姿を見て、諦めた様にため息をついた。
「お前も知っているだろ?うちの両親離婚したんだ。別に俺は親の離婚を悲しんでやしないんだ。人の親だろうとなんだろうと、嫌なら別々に生きればいい」
据山くんは望遠鏡から離れて、近くの大きめの石に腰を下す。
「うちの親父絵に描いた様なダメ親父でさ、アルコール中毒で、外に女作って、家の金使っちまって、最終的には家庭内暴力まで始めちまって。俺さ、お袋に聞いた事があるんだ。“なんでお母さんはあの男と離婚しないの?”って。そしたら、お袋、なんて言ったと思う?」
据山くんが力なく笑う。
「“だってほっとけないじゃない”ってそう言ったんだ。“私がそばにいてあげないと、あの人はどこまでも落ちていってしまう。”“自分が底まで落ちたって気づいた時に、一人だったら、可哀そうじゃない。”って、そう、言ったんだ。まぁ、結局はお袋も支えきれなくなっちまったみたいだけど・・・・・・」
手足が凍るように冷たい。川がすぐわきで流れているせいだろう。気温がぐんぐん下がって感じる。指の先は石になってしまったようだ。
そこまで言うと、据山くんは伸びをしながら立ち上がり、赤い登山用リュックの中から魔法瓶をだすと、蓋に中の液体を注ぐ。
「ほら、冷えるだろ?」
「ありがとう」
そっと赤いキャップに口を近づける。
甘い紅茶が気分まで溶かしてくれるようだ。
「神山さ、親に言われて、東京の女子大に行ってそこの寮に入るんだって。飛行機に乗って二時間。今までみたいに会えなくなるよな」
「だから、別れるの?」
私の言葉に据山くんは悲し気な笑顔を向ける。
「ううん。言い訳」
「言い訳?」
「いや、別れるには真っ当な理由が必要じゃん」
「んー」
男性とお付き合いをしたことのない私にはよくわからない。でも、
「でも、言い訳ってことは、本当の理由があるんだよね?」
「お前、聞いたらバカにするぞ?」
「それでも聞きたいって言ったら・・・・・・教えてくれるの?」
「別に教えてやらんわけでもないけど。てか、お前とこうして話すのもずいぶん久しぶりだな」
「言葉を交わす事自態三年ぶり」
私はボソッと言う。
「へぇ・・・・・・。つーか覚えてんのかよ?ストーカーみたい・・・・・・」
「うるさい」私はさらにさらにちいさくボソッと言う。
「それで、据山くんが花と別れた本当の理由ってなんなのさ?」
「あ、あぁそうだったな。たまたまさ、たまたまあいつが他の女子と話しているのを聞いちまったんだよ。“才色兼備、完璧超人の花ちゃんが、どうして単なる田舎のヤンキー風情の据山くんと付き合ってるの?”て。」
そこで据山くんは言葉を区切る。
清流の流れる音と、高松橋を走り去る車の走行音がまばらに聞こえた。
「あいつさ、俺の母親と同じことを言ったんだ。“だって、ほっとけないから”って」
なにも、言えなかった。
私も、私自身も、花のその言葉に傷つけられた事があったから。
二人ともなにも言わない。
川の流れる音だけが聞こえた。
ごめん。花。私、花を助ける事、できないみたい。そう思い、私は据山くんに別れの挨拶をする。
「もうそろそろ帰るね。夕食もできている頃だと思うし・・・・・・。据山くんも風邪引かないようにね。寒いから・・・・・・。紅茶、ありがとう」
そう言って背を向ける私に、据山くんが声をかけてくる。
「なぁ、久しぶりに、さ、星、観てかないか?」
私は据山くんの方へ首を回す。
腕時計で時間を確認しようとしたら、私は腕時計なんてしてなかった。
まぁいいか。
夜に家を抜け出した時点でお説教は避けられないだろうし。
どっちにしろ怒られるなら、星でも見て帰ろうか。
私はそう思い、望遠鏡の方へ近づく。
「今はなにが見えるの?」
「分かりやすいのだとオリオン座、冬の大三角とか・・・・・・俺はベテルギウスの光り方が好きなんだ」
「ベテルギウス?」
「そう。オリオン座の一等星。バンプの歌とかにもでてくる・・・・・・」
「ふーん」
望遠鏡を覗く私の真後ろで、据山くんがささやく様に話している。
パーカーの薄着の背中に、据山くんの体温を感じる。
温かい。
とても。
温かい。
あの頃とは違い、据山くんからは鼻をさす様な香水の匂いがした。
私は昔の太陽の香りみたいな匂いの方が好きだったけれど、背中に感じる温かさは相変わらず私に安心感を与えてくれる。
こうしていると、まるであの頃に戻ったみたい。
据山くんが大好きだったあの頃に・・・・・・。
☆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆
「あれが織姫で・・・」
「ふんふん」
「あれが彦星」
「ほわぁ」
「わかった?」
「うん!」
「だけどさ、二人は一年に一回しか会うことができないんだ」
「え?なんでー?」
「天の川。その川が二人の間に流れていて、二人は会うことができないんだ」
「天の川、悪いやつだね」
「そうだな。悪いのは天の川だな・・・・・・。きっと、父さんと母さんも・・・・・・」
そうして、据山くんは悲しそうな顔をした。
ちょうど、今みたいに・・・・・・。
そこで私はハッとする。
そうだ・・・・・・。
思い出した。
私がどうしてダムを作りたいのか。
私は、大介くんの悲しそうな顔を見て、続けてこう言ったんだ。
「じゃあさ、私がダムを作ったげる!」
「ダム?」
「そう、ダム!」
「なんでダム?」
「ダムで天の川を止めちゃうの!」
「んー?」
大介くんは首を傾げる。
「ダムってそうゆうもんだっけ?」
「そうだよ!ダムってそうゆうものだよ!」
「そうだっけぇ?」
相変わらず半信半疑の大介くんに私は満面の笑顔を向ける。
「それでね、私が、大介くんを笑顔にしてあげる!」
大介くんはぽかんと私を見つめたあと、にっこりと笑った。
笑ってくれた。
そして、私の頭に手を置いて、優しく呟いた。
「ありがとう。助かった・・・・・・」
私は首を傾げる。
「私が大介くんを助けるのはこれからだよ?」
そんな私に大介くんは優しい眼差しを向ける。
同じ年の男の子がこんな目をするのを、私は初めて見た。
「そうか、そうだな。うん。楽しみにしてる」
私は自分の頬を涙が伝うのに気づく。
そうか。
私は気づいてしまった。
そうか。そうだったのか。
私は、今でも・・・・・・、今でも、大介くんの事が好きだったんだ。
こんな単純な事に気づかなかった。
そうか。
私は未だに大介くんを笑顔にしたかったんだ。
今となってはダムなんか作ったところで大介くんが笑ってくれるとは思わないけれど、幸せになってくれるとは思わないけれど、それでも私にはそれしかなかったんだ。
大介くんが色んな女の子と付き合いだして、距離が開いてしまった今となっては、あの頃の約束を果たす事ぐらいしか、すがることができなかった。
そうか。
だから、私は、大介くんをどうしようもないチャラ男だって評して、誰と付き合ったって気にして・・・・・・。
大介くんと付き合った花との距離を感じて。
大介くんを心の隅で追いかけていたんだ。
大介くんをほっておくことができなかったんだ。
そうか。そうなんだ。
ほっておけないって、こんなに温かい気持ちなんだ・・・・・・。
はぁ。私はため息をつく。
自分の気持ちに気づいたのと同時に、花の言葉の意味が分かってしまった。
神様、ちょっと残酷すぎやしないだろうか。
そうか。これが『ほっておけない』って気持ちならば、別に悪くないじゃないか。
それは危なっかしくて見てられない、だけじゃない。
もっと温かいものが、その芯には確かにあった。
花は大介くんを、私をただ大好きだった。それだけだったんだ。
大好きだからこそ、目が離せなくて、ほっとけなくて、そばにいて欲しかったんだ。
「早川・・・・・・?」
私が泣いているのを見て、据山くんが恐る恐る声をかけてくる。
私はそれを無視して、涙をパーカーの袖でグイっと拭う。
「今すぐ、花のところに行って・・・・・・」
「は?」
「今すぐ、花を抱きしめてあげて」
拭ったはずなのに、次から次へと涙は私の頬を流れる。
「今すぐ、花に大好きだって伝えてあげて」
「なんで・・・・・・」
「花は、据山くんのことが大好きなんだよ?」
「そんなことねぇよ。あいつは、髪染めて、授業サボって、そんな俺を矯正しよって俺のそばにいただけで・・・・・・」
「違うの!」
「あ?」
「違うの!」
「な、なんでお前にそんな事わかるんだよ・・・・・・?」
「私も、花と同じ気持ちだったから、私も・・・・・・大介くんのこと・・・・・・好きだったから・・・・・・。気づけば、据山くんのこと・・・・・・考えちゃってたから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
私はもう一度パーカーの袖で涙を拭う。
そして、据山くんの目をまっすぐ見つめる。
「今なら、今なら間に合うから・・・・・。花のところに、行ってあげて」
据山くんは、身体を翻し、駆け出す。
私は土手を駆け上がり、段々小さくなる据山くんの背中を見送る。
私にできることはやった。
あとは二人次第だ。
「あの美少女で、勉強も運動もできて、性格も天使な花を⁉顔はいいけど、それだけで、顔の割には運動神経も勉強も中の中の据山くんが?」
「お前なぁ・・・・・・」
「なんで・・・・・・?」
「お前が好きだから・・・・・・」
うぐ、思わず言葉を飲み込む。
据山くんが私の事を好き?
・・・・・・。
そんはず、ない!
「嘘でしょ?」
「いや、まるきり嘘ってわけじゃないんだけどな・・・・・・」
嘘だ。だって、私達はここ何年も口をきいていない。
私は黙って据山くんを睨みつける。
据山くんはそんな私の姿を見て、諦めた様にため息をついた。
「お前も知っているだろ?うちの両親離婚したんだ。別に俺は親の離婚を悲しんでやしないんだ。人の親だろうとなんだろうと、嫌なら別々に生きればいい」
据山くんは望遠鏡から離れて、近くの大きめの石に腰を下す。
「うちの親父絵に描いた様なダメ親父でさ、アルコール中毒で、外に女作って、家の金使っちまって、最終的には家庭内暴力まで始めちまって。俺さ、お袋に聞いた事があるんだ。“なんでお母さんはあの男と離婚しないの?”って。そしたら、お袋、なんて言ったと思う?」
据山くんが力なく笑う。
「“だってほっとけないじゃない”ってそう言ったんだ。“私がそばにいてあげないと、あの人はどこまでも落ちていってしまう。”“自分が底まで落ちたって気づいた時に、一人だったら、可哀そうじゃない。”って、そう、言ったんだ。まぁ、結局はお袋も支えきれなくなっちまったみたいだけど・・・・・・」
手足が凍るように冷たい。川がすぐわきで流れているせいだろう。気温がぐんぐん下がって感じる。指の先は石になってしまったようだ。
そこまで言うと、据山くんは伸びをしながら立ち上がり、赤い登山用リュックの中から魔法瓶をだすと、蓋に中の液体を注ぐ。
「ほら、冷えるだろ?」
「ありがとう」
そっと赤いキャップに口を近づける。
甘い紅茶が気分まで溶かしてくれるようだ。
「神山さ、親に言われて、東京の女子大に行ってそこの寮に入るんだって。飛行機に乗って二時間。今までみたいに会えなくなるよな」
「だから、別れるの?」
私の言葉に据山くんは悲し気な笑顔を向ける。
「ううん。言い訳」
「言い訳?」
「いや、別れるには真っ当な理由が必要じゃん」
「んー」
男性とお付き合いをしたことのない私にはよくわからない。でも、
「でも、言い訳ってことは、本当の理由があるんだよね?」
「お前、聞いたらバカにするぞ?」
「それでも聞きたいって言ったら・・・・・・教えてくれるの?」
「別に教えてやらんわけでもないけど。てか、お前とこうして話すのもずいぶん久しぶりだな」
「言葉を交わす事自態三年ぶり」
私はボソッと言う。
「へぇ・・・・・・。つーか覚えてんのかよ?ストーカーみたい・・・・・・」
「うるさい」私はさらにさらにちいさくボソッと言う。
「それで、据山くんが花と別れた本当の理由ってなんなのさ?」
「あ、あぁそうだったな。たまたまさ、たまたまあいつが他の女子と話しているのを聞いちまったんだよ。“才色兼備、完璧超人の花ちゃんが、どうして単なる田舎のヤンキー風情の据山くんと付き合ってるの?”て。」
そこで据山くんは言葉を区切る。
清流の流れる音と、高松橋を走り去る車の走行音がまばらに聞こえた。
「あいつさ、俺の母親と同じことを言ったんだ。“だって、ほっとけないから”って」
なにも、言えなかった。
私も、私自身も、花のその言葉に傷つけられた事があったから。
二人ともなにも言わない。
川の流れる音だけが聞こえた。
ごめん。花。私、花を助ける事、できないみたい。そう思い、私は据山くんに別れの挨拶をする。
「もうそろそろ帰るね。夕食もできている頃だと思うし・・・・・・。据山くんも風邪引かないようにね。寒いから・・・・・・。紅茶、ありがとう」
そう言って背を向ける私に、据山くんが声をかけてくる。
「なぁ、久しぶりに、さ、星、観てかないか?」
私は据山くんの方へ首を回す。
腕時計で時間を確認しようとしたら、私は腕時計なんてしてなかった。
まぁいいか。
夜に家を抜け出した時点でお説教は避けられないだろうし。
どっちにしろ怒られるなら、星でも見て帰ろうか。
私はそう思い、望遠鏡の方へ近づく。
「今はなにが見えるの?」
「分かりやすいのだとオリオン座、冬の大三角とか・・・・・・俺はベテルギウスの光り方が好きなんだ」
「ベテルギウス?」
「そう。オリオン座の一等星。バンプの歌とかにもでてくる・・・・・・」
「ふーん」
望遠鏡を覗く私の真後ろで、据山くんがささやく様に話している。
パーカーの薄着の背中に、据山くんの体温を感じる。
温かい。
とても。
温かい。
あの頃とは違い、据山くんからは鼻をさす様な香水の匂いがした。
私は昔の太陽の香りみたいな匂いの方が好きだったけれど、背中に感じる温かさは相変わらず私に安心感を与えてくれる。
こうしていると、まるであの頃に戻ったみたい。
据山くんが大好きだったあの頃に・・・・・・。
☆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆
「あれが織姫で・・・」
「ふんふん」
「あれが彦星」
「ほわぁ」
「わかった?」
「うん!」
「だけどさ、二人は一年に一回しか会うことができないんだ」
「え?なんでー?」
「天の川。その川が二人の間に流れていて、二人は会うことができないんだ」
「天の川、悪いやつだね」
「そうだな。悪いのは天の川だな・・・・・・。きっと、父さんと母さんも・・・・・・」
そうして、据山くんは悲しそうな顔をした。
ちょうど、今みたいに・・・・・・。
そこで私はハッとする。
そうだ・・・・・・。
思い出した。
私がどうしてダムを作りたいのか。
私は、大介くんの悲しそうな顔を見て、続けてこう言ったんだ。
「じゃあさ、私がダムを作ったげる!」
「ダム?」
「そう、ダム!」
「なんでダム?」
「ダムで天の川を止めちゃうの!」
「んー?」
大介くんは首を傾げる。
「ダムってそうゆうもんだっけ?」
「そうだよ!ダムってそうゆうものだよ!」
「そうだっけぇ?」
相変わらず半信半疑の大介くんに私は満面の笑顔を向ける。
「それでね、私が、大介くんを笑顔にしてあげる!」
大介くんはぽかんと私を見つめたあと、にっこりと笑った。
笑ってくれた。
そして、私の頭に手を置いて、優しく呟いた。
「ありがとう。助かった・・・・・・」
私は首を傾げる。
「私が大介くんを助けるのはこれからだよ?」
そんな私に大介くんは優しい眼差しを向ける。
同じ年の男の子がこんな目をするのを、私は初めて見た。
「そうか、そうだな。うん。楽しみにしてる」
私は自分の頬を涙が伝うのに気づく。
そうか。
私は気づいてしまった。
そうか。そうだったのか。
私は、今でも・・・・・・、今でも、大介くんの事が好きだったんだ。
こんな単純な事に気づかなかった。
そうか。
私は未だに大介くんを笑顔にしたかったんだ。
今となってはダムなんか作ったところで大介くんが笑ってくれるとは思わないけれど、幸せになってくれるとは思わないけれど、それでも私にはそれしかなかったんだ。
大介くんが色んな女の子と付き合いだして、距離が開いてしまった今となっては、あの頃の約束を果たす事ぐらいしか、すがることができなかった。
そうか。
だから、私は、大介くんをどうしようもないチャラ男だって評して、誰と付き合ったって気にして・・・・・・。
大介くんと付き合った花との距離を感じて。
大介くんを心の隅で追いかけていたんだ。
大介くんをほっておくことができなかったんだ。
そうか。そうなんだ。
ほっておけないって、こんなに温かい気持ちなんだ・・・・・・。
はぁ。私はため息をつく。
自分の気持ちに気づいたのと同時に、花の言葉の意味が分かってしまった。
神様、ちょっと残酷すぎやしないだろうか。
そうか。これが『ほっておけない』って気持ちならば、別に悪くないじゃないか。
それは危なっかしくて見てられない、だけじゃない。
もっと温かいものが、その芯には確かにあった。
花は大介くんを、私をただ大好きだった。それだけだったんだ。
大好きだからこそ、目が離せなくて、ほっとけなくて、そばにいて欲しかったんだ。
「早川・・・・・・?」
私が泣いているのを見て、据山くんが恐る恐る声をかけてくる。
私はそれを無視して、涙をパーカーの袖でグイっと拭う。
「今すぐ、花のところに行って・・・・・・」
「は?」
「今すぐ、花を抱きしめてあげて」
拭ったはずなのに、次から次へと涙は私の頬を流れる。
「今すぐ、花に大好きだって伝えてあげて」
「なんで・・・・・・」
「花は、据山くんのことが大好きなんだよ?」
「そんなことねぇよ。あいつは、髪染めて、授業サボって、そんな俺を矯正しよって俺のそばにいただけで・・・・・・」
「違うの!」
「あ?」
「違うの!」
「な、なんでお前にそんな事わかるんだよ・・・・・・?」
「私も、花と同じ気持ちだったから、私も・・・・・・大介くんのこと・・・・・・好きだったから・・・・・・。気づけば、据山くんのこと・・・・・・考えちゃってたから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
私はもう一度パーカーの袖で涙を拭う。
そして、据山くんの目をまっすぐ見つめる。
「今なら、今なら間に合うから・・・・・。花のところに、行ってあげて」
据山くんは、身体を翻し、駆け出す。
私は土手を駆け上がり、段々小さくなる据山くんの背中を見送る。
私にできることはやった。
あとは二人次第だ。