九月一日〜朝から晩まで~
汗が引くのを感じながら、
苔むす壁に触れると、
そこも期待通り冷たい。
「ああ、抱きつきたい…」
「いいよ」
無意識に発した言葉に、
物言わぬ壁から返事があった。
壁の妖怪には腕が生え、
意思を持ってこちらの首に絡めてきた。
間抜けで目立つツクツクボウシの鳴き声が、
愚かな教師を絞め殺そうとしている、
妖怪の頭越しの耳に届く。
ピクリとでも動いたら、
その赤い唇が牙を剥くにちがいない。
獲物の反応がないことに腹を立てた妖怪は、
次の手段に打って出た。
「アオくん、…紗良、
お水飲みたくなっちゃった」
「…俺、どう見ても手ぶらじゃね?」